(739)意外に良かった鳴門徳島サイクリングロード-10

「あぁ、かなり前、俺もこんなところで働いてたよなぁ」。
脚を止め、道路の両端にぽつぽつと並ぶ工場、製作所に視線を向ける。
少し懐かしい気分だ。

20年近く前の話。
出来損ないの大学生だった俺を、契約社員として受け入れてくれた会社は、「ゴールドウィーク明けから仕事して。勤務先は、○○電機の××製作所ね」。
会社に言われた通り、朝の8時だったか、郊外にある××製作所の最寄り駅、改札を出たところで突っ立っていると、「krmくんですか?」。
知らない中年男性(後の上司)の声。
しばらくすると、俺と同じぐらいの年頃(20代前半)の男が15人ほど集まり、知らない男性を先頭に製作所へ。
「あぁ、これが何とかいうプロジェクトのチームってやつか」。
そんなことを考えながら、俺はぼんやりと後に続いた。

広々とした製作所。
○号館~×号館、○号棟~×号棟、○○工場~××工場と多くの施設が建ち並び、同じ作業着を羽織った人たちが行き交っている。
第一印象としては、「とんでもなく殺風景なところやなぁ」。

その中で、我々のチームが宛がわれた作業場は、元々社員寮だったらしく、「狭いボロアパートの壁をぶち抜いて、作業部屋に相応しい広い空間を作りました」という感じ。
第一印象としては、「なかなか歪な建物やな」。

「とりあえず、適当に座って下さい」。
上司の指示に従い、適当な席に着き、適当にパソコンをセッティング。
「仕様書をダウンロードして、読んで下さい」。
上司の指示に従い、仕様書に目を通したが、すぐに「だっるー」。
つい先日までいい加減な学生生活を送っていた俺は、集中力が欠落していた。
完璧に。

「面倒くさなってきたなぁ」と、1階の自販機で缶コーヒーを買い、休憩室の薄汚いソファーに座る。
と、小太りの男が「ここ、いいですか?」。
「はぁ、どうぞ」。
「この仕事、初めてですか?」。
「はい、初めてです。てか、社会人になって初めての仕事なんです」。
そう返すと、小太りは愛嬌のある顔で頷き、煙草を吸い始めた。
そして、「僕もここが初めてなんです」と。
「お、俺と同じ境遇か!」。
そう思うと、一気に親近感が湧き、「自分はkrmいいます」。
お互いに自己紹介。

小太りはIくんといい、俺より2つ下。
地元は徳島だが、高校を卒業して大阪の専門学校へ。
まともに卒業したのかどうかは知らないが、しばらくぶらぶらした後、「今、ここにいる」と。
なるほど。
俺とさほどレベルの違わないダメ人間。
自然に心を開いたところで、「ここ、いいですか?」。
目付きの悪い男。
Kくん。
彼も似たような境遇で、すぐに打ち解けた。

その日は夕方まで仕様書を読み、「わけわからんわぁ」が率直な感想。
ただ、職場に話せる人間を見付けられたことは、大きな収穫だと思えた。
社会人1日目としは。

その時、俺が所属していたチームの業務であり、俺の作業は、携帯電話のソフト評価。
ソフトウェアの試験をしてバクを検出する。
手順としては、試験仕様書に則り、パソコン上に表示されたエミュレーター(擬似的な携帯)を操作し、ログを確認。
「おかしな動きやなぁ」があれば、仕様書(試験仕様書ではなく大元の)を読み、正常動作かバグかを判断した上で、「これは不具合やな」があれば報告する。
簡単に言うとね。
で、検出した回数が多ければ多いほど「お手柄」が増えるわけだが、俺はいきなり行き詰まった。

「わけわからんわ…」。
試験試験書に則りバグを検出し報告しても、「それは仕様通り」。
上司は不機嫌な態度で俺に指摘。
また、「これはバグや。仕様書と動作が違う」と判断し、障害報告しても、「それは仕様通り」。
上司は不機嫌な態度で俺に指摘。
俺からすると、ソフト、仕様書、試験仕様書が別々の動き、別の記述で、何が正解か分からない。
ただただ混乱するばかり。

まぁ、1年後、自分がそういった資料を書く立場になって理解したが、このプロジェクトに用意された資料は、前機種の資料を不完全(すぎる)な形で流用し、そのままキックオフしたようだ。
なるほど。
初心者の俺には、どうしょうもない。

話を続ける。
キーボードを叩くよりも悩んでばかりの日々。
「何を信じたらええんやろ…」。
溜め息をついて1階の自販機に向かい、缶コーヒーを買って休憩室のソファーに座る。
と、Iくん。
「お疲れ」。
「お疲れ」。
ふと、「彼も同じ環境で作業に向き合い、同じように苦しんでるはず」。
そう思い、「どんな感じ?」。
聞いてみる。
Iくんはニヤニヤしながら、「うん?普通にやってんで」。
俺からすると、何が正解なのか分からない世界で、「何で普通にできるねん!?」だが、彼は悲壮感0。
むしろ、仕事が楽しそう。

「俺とIくん、何が違うのか?」。
考える。
仕事における成果、障害報告数はほぼ同じ。
かなり低い次元で争っている。
上司から見ると、どちらも出来損ないだろう。
ただ、上司は俺に冷たく、Iくんには優しい。

「この差は何なのか?」。
考える。
「あ…」。
思い当たる節があった。
2~3週間前のこと。
報告書を提出した際、上司に何点か指摘され、俺はまだ学生気分が抜けていなかったのだろう。
「はい、分かりました」と言えば済むところを、ついつい反論。
以来、上司の俺に対する接し方はあからさまに変わった。
挨拶をしても無視される。
廊下ですれ違っても目を合わせてくれない。

片や、Iくんに接する時の上司は優しい。
Iくんが、持ち前のだらしなさを発揮し、遅刻しても、机の上が散らかっていても、上司は笑顔で指摘。
Iくんも笑顔。
いい加減な報告書を提出しても、上司は笑顔で指摘。
Iくんも笑顔。
傍から見ていると、ふたりはこんな感じ。
「そっかぁ、わかった。彼には愛嬌が有り、俺には愛嬌など微塵も無い」。

「羨ましいよなぁ」。
職場で楽しそう振る舞うIくんを間近で見つつ、俺は上司に怯える毎日を過ごした。

つづく

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