(767)ロードバイクに乗って津田引田線を走り、鳴門で夜を過ごす~9月25日~

「鳴門、今日は天気ええみたいですけど、明日はどうですかねぇ?」
「出発前に天気予報をチェックしましたけど、明日は夕方から怪しいみたいですね」
「夕方…ですか。ま、夕方からやと、我々には関係無いですね。もう帰ってますから」
「そうですね」
「ちなみに、待ち合わせはいつも通りですか?」
「はい、15時に渡船乗り場の駐車場で」

鳴門に向け、深夜の高速道路を走る。
ハンドルを握るのは、Nさん(50代 男性)。
彼は、いつも真鯛釣りをするため鳴門を訪れるのだが、その際、俺(とロードバイク)も車に乗せてくれる。
有り難い。

「こんな時間に運転するのも疲れるやろなぁ」
運転席のNさんを見て、ふと思う。
出来ることなら、代わってあげたい。
要所要所で運転を交代すれば、彼の負担も減るだろう。
しかし…だ。
それは出来ない。
何故なら、俺は車の免許を持っていない。

「ちょっと休憩しますわ」
Nさんが、淡路SAの駐車場に車を止めた。
「はい」
トイレに向かう彼を追い、俺も車を降りる。
水を買っておきたい。
前の晩、酒を飲み過ぎたのか、妙に喉が渇く。

自販機の前でサイクリング用の財布を開き、小銭を取り出していると、「うっわ…」。
常日頃から、「俺はぼんやりした人間。アホ」と自己分析しているが、それは正しかった。
「おいおい…」
「おいおい…、おいおい…」
ロード絡みで遠出する際、普段使っている財布の中身をサイクリング用の財布に移し替えている。
この日もそうだ。
出発前に、現金、保険証、クレジットカード、キャッシュカードを移し替えた…つもりでいた。
が、キャッシュカードが無い。

「まぁ、今回の旅で、銀行から金を引き出すほど豪遊する予定も無いし、キャッシュカードなんか無くても大丈夫やろ」
「うん、大丈夫やわ」
水を買い、車に戻る。

「いや、大丈夫ちゃうやろ!」
助手席で叫びそうになった。
サイクリング用の財布にキャッシュカードを移し忘れた…なら、いい。
しかし…だ。
ちゃんと移し替えた…けど、どこかで落としました…の可能性もある。
「キャッシュカードの紛失は、大事(おおごと)やわ!」

「では、行きましょうか」
トイレから戻り、アクセルを踏むNさん。
世間話をしながら、車は鳴門へ進む。
が、気になる。
キャッシュカードが気になる。
もしも紛失していれば…が頭から離れない。

俺は母親譲りの心配症だ。
無駄に心配し、そして自分を苦しめる。
普段のライド中でも、ふと「コンセント、抜いたかな?」や「電気消したかな?」。
気になりだすと、不安で不安で仕方無くなる。
ライドを楽しめない。
同様に、今回もキャッシュカードが気になって、楽しめない旅に…なるかも知れない。

「ヤバいな」
考える。
もし、Nさんに事情を説明し、「…と言うわけでですね、キャッシュカードが気になるので、家に引き返してもらえませんか?」などと言えば、二度と誘ってもらえなくなるだろう。
出発してから、既に70㎞ほど走っているのだから。

車の中で、押し寄せる不安と戦っていると、精神に疲労感。
「あかんわ」
「キャッシュカードのことばっかり考えてまう」
「もう、何も考えるな」
「目を閉じて無になれ」
「無になれ」
「無に…」

目を開く。
と、鳴門の渡船乗り場。
駐車場。
ドアを開け、外に出る。
天気は良さそうだ。

つづく

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