(772)ロードバイクに乗って津田引田線を走り、鳴門で夜を過ごす~ささやき~

昔ながらの景観を楽しもうと、引田駅より北西へと少し進んだが、どうも違和感を覚える。
俺が期待しているのは、歴史を感じさせてくれる古い町並み。
目の前には、どこにでもありそうな田舎の町並み。
「道、間違えたかな?」
「しまったなぁ」
「案内図を適当に見て、感覚に頼って走り始めたのが原因や…と自分を責めてる場合ちゃうわ」
「もう少し走って、次に『ヤバいな』思ったらGoogleマップを頼ろ」

くねくね…くねくね…と路地を曲がり、そして進み、右手に洋館が。
「おぉ…」
「やっぱり、俺の勘は当たるねぇ」
「我ながら思うよ。俺は『期待に応えてくれる男』やなと」

旧引田郵便局。
レトロな建物。
八角形の窓が味わい深い。
ちなみに、今は郵便局として…ではなく、カフェとして利用されているらしい。
まぁ、俺はカフェに立ち寄る習慣は無いし、そもそも営業時間前のようだ。
「ま、とりあえず写真撮ろか」

スマートフォンを構え、シャッターボタンを押す。
カシャ…。
アルバムを確認。
「う~ん、いまいちやな」
「寄りすぎやわ」
「お洒落でレトロな建物に、迫力を求めてるわけでもないしなぁ」
納得できず、再度、撮影を試みる。
が、何枚撮っても寄りすぎ。
「あかんか…」
「あかんわ…」
引きの構図をイメージしつつ後退りし、シャッターボタンを押そうとしても…だ。
そもそも、郵便局前の道が狭すぎる。
後退れない。
引きの写真が撮れない。
参った。

「まぁ、ええやん」
もうひとりの自分が、耳元でささやいた。
「写真にこだわりなんて無いくせに」
「普段、カメラぶら下げて写真撮りに出掛けてるか?」
「出掛けへんやろ?」
「撮った写真に納得でけんと悩んでる、そんな自分に酔ってるだけなんやろ?」
「ほんまは悩んでないくせに」
「『あぁ…、自分、大好き!』とか思って、満たされながら悩んでるふりをしてるだけなんやろ?」
返す言葉が無い。
仰る通り過ぎて。

「とりあえず、この場から離れたい」
そんな心境に陥り、右足をペダルに乗せて軽く踏み込む。
パチッ…。
足下で小さな音が鳴った。

つづく

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