(784)ロードバイクに乗って津田引田線を走り、鳴門で夜を過ごす~山のラジカセ~

山を越えれば、引田の町。
登りが苦手な俺としては、「これから辛い目に合うんやろなぁ…」。
自然と気分が萎える。
ただ、よく考えてみると、俺は過去に何度かアワイチを経験している。
島の南側にある山並みを登り進んだ。
「あれに比べたらマシやろ」
そう思うと、気分が少し楽になった。

「そろそろか…」
「この辺りが山の入口か」
まずは、緩やかな傾斜からスタート。
シッティングで、くるくると脚を回す。

やがて、道が狭くなり、右へ曲がって左に曲がって…を繰り返す。
気のせいか、曲がるたびに勾配がきつくなっているような。
うん、気のせいではない。
脚に疲労を感じる。
明らかに。

クランクを回しながら、考えることはひとつ。
「今、俺は、この山のどの辺りにいるのか?」ということ。
もう半分ぐらいは登ったのか?
頂上が近いのか?
遠いのか?
俺は、俺自身の闘志が失われないよう、「あと少しで登りが終わるで」と自分に言い聞かせる。
ただ、「そんなわけないやんけ」と頭では分かっていた。
スタートして、まだ間も無いのだから。

深く息を吸い、そして吐いた後、サドルから腰を上げる。
だらだらと苦痛に耐えるより、ボロボロになっても登り終えたい。
さっさと。
「行くぞ」
脳内でGOサインが出た。
顔を上げ、前を向く。

と、気のせいか、人の話し声が聞こえる。
「え?こんな山の中に、人、おるか?」
違和感を覚えつつ、脚を回した瞬間、「あ、おった!」。
少し先に、おじいちゃん。
こちらに向かって、ゆっくり歩いて来る。

山の中…だからか、久し振りに人と会った気分になり、おじいちゃんに会釈。
すれ違う際、おじいちゃんも笑顔で会釈を返してくれた。
ちょっと嬉しい。
が、また違和感を覚える。

おじいちゃんの身なりが、どうもおかしい。
麦原帽子を被り、着ている服は甚平。
まぁ、この辺りでは定番のファッションなのかも知れないが、やはりおかしい。
左手に持った、浪曲を流すラジカセが、どう考えてもおかしい。
俺は、今までの人生において、ラジカセを持って歩く人を見たことがない。

右に曲がり、ペダルを踏む。
踏みながら、考える。
「あのおじいちゃん、かなり変わった人なんちゃうか?」
「いや、人じゃなくて、狸が化けてたんかもな」
「ラジカセを持った狸かぁ。ユニークでいいねぇ」

左に曲がる。
登りは、まだ続く。
「1、2、1、2…」
全神経を脚に集中…しようとしたが、何か引っ掛かる。
ラジカセが、何故か引っ掛かる。

「あ!」
思い出した。
登山やキャンプを趣味とする知り合いが言っていた。
「山ではね、熊避けにね、スピーカーで音楽を流しながら歩きますねん」と。

「まさか、あのラジカセは熊避けか?」
「ってことは、ここ、熊が出るんか…?」

全力で脚を回す俺。

つづく

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コメント

  1. トマジ より:

    怪談かと思った…。
    まさかの熊予想…。

    • krm より:

      幽霊や妖怪よりも、熊の方が圧倒的に怖いと思いましたわ。
      山の中を走っている時。