(789)ロードバイクに乗って津田引田線を走り、鳴門で夜を過ごす~道子~

引田駅の辺りから、11号線を東へ進む。
目指すは鳴門。
今夜、宿泊するホテルが鳴門にある。

「明日、筋肉痛やなぁ」
「柄でも無く、必死こいて登ったもんなぁ」
脚を心配をしつつ、ふとサイコンに目をやると、「参ったなぁ」。
時刻表示。
「12:50」
都合が悪い。
まだ13時前ではないか。
ホテルのチェックインは15時。
おそらく、鳴門のホテルまで10㎞程度。
10㎞程度の距離を2時間もかけて進むのは、逆に難しい。

時間の潰し方を考える。
「本屋を見付けて立ち読みしよかぁ」
「ホテルの近所にある飲み屋に入って、酒飲もかぁ」
ダメだ。
店先にロードバイクを置いて、目を離すのは怖い。
「何か、他にあれへんかなぁ?」
再度、考える。
あった。
少し進むと、海沿いに休憩所があったはず。
休憩所でぼんやりして、時間を潰そう。

ベンチに腰掛け、ぼんやりと海を眺める。
「綺麗やなぁ」と思う。
が、すぐに飽きてしまい、何の感動も無く、また海を眺め続ける。
まぁ、他にすることが無いのだ。

同じ様に、田舎を走っている時も「綺麗な景色やなぁ」と思うことが多い。
ただ、すぐに飽きてしまい、「退屈な景色やなぁ」と思う…わけだが、もしも自分が田舎で生まれ育ったら、「今とは違う性格の俺が、今とは違う人生を歩んでいたんだろうなぁ」。
そんな想像をしてしまう。

俺は、ど田舎に住む百姓の倅。
山を越え、6㎞の道のりを歩き、小学校(分校)に通う子供。
学校から帰ると、畑仕事を手伝う毎日。
泥まみれの毎日。
そんな俺にも、ひとつだけ楽しみがあった。
ガンプラだ。
都会では、「だぶるぜーた」というガンダムが流行っているらしいが、俺にはよく分からない。
こちらのテレビでは、最近、「ジャブローに散る」が放送されたばかりで、「だぶるぜーた」というのは知らない。

畑仕事を終え、食卓に並ぶおからを食べた後、俺は至福の時間を過ごす。
机の引き出しを開け、小さな宝箱「グフ 1/144」を取り出し、今日も少しずつ…少しずつ…組み立てるのだ。
「オラ、グフが好きだっぺ!」

と、ここまで読んで、「お前はプラモ作りだけしている暗い幼少期を送ったのか?」とあなたは思っただろう。
いや、オラ、ではなく俺には友達がいた。
隣(5㎞先)に住む、ひとつ年下の保(たもつ)がいた。
ただ、遠いので、俺はプラモ作りに勤しむ。
「オラ、グフが好きだっぺ!」

そんな俺も中学に入り、2年と少し。
ついに高校受験を迎える。
受験戦争だ。
が、近隣に高校が1校(偏差値測定不可能)しか無いため、受験勉強など一切せず進学。
大学も、何故か指定校推薦の枠があったため、受験勉強など一切せず大学へ。

都会の大学。
勉強よりも、生活に馴染めない。
人の歩くスピードも、時間の流れも、故郷とは違いすぎる。
下宿先から大学へ、大学からバイト先へ、電車に乗るのも一苦労だ。
そう、オラはバイトを始めた。
下町の小さな焼肉屋。
大将からは、「ぼけっとするな!」と随分怒られたが、仕事の後、「今日はちょっと言い過ぎたか?」と、赤ちょうちんに誘ってもらい、嬉しかった。
今では「第二の父親」と思っている。

大学生活も終わりに近付き、オラは就職活動を始めた。
故郷に戻るか都会で働くか悩んだが、オラなりに「都会で爪痕を残したい」と思い、某スーパーの採用試験を受け、面接に進んだ。
「人」という字を掌に書き、それを飲み込み会議室(面接会場)に乗り込む。
と、妙に眼光鋭い面接官がふたり。
その間に座る穏やかな顔立ちの紳士…は社長だろうか?

「それでは、krmさん。志望動機を…」
大したやりとりではない。
が、面接官の威圧感に押され、オラはしどろもどろ。
当たり前の答えが口から出ない。
と、履歴書に目を通した社長が、「ほぉ、krmくんは、△△県○○郡××村のご出身ですか?」。
「はい、オラ…ではなく私は、△△県○○郡××村のご出身です…出身です」
「そうですか!」
なんと、社長は同郷だった。
即採用。

本社で研修を受けた後、現場に投入される。
色々な売場を回され、バタバタする日々。
憶えることが多く苦労もしたが、充実感の方が大きかった。
知らなかったことを知り、出来なかったことが出来るようになる。
自分の成長を実感できる毎日。
満たされた毎日。

しかし…、オラは2ヶ月で会社を辞める…。
仕事に不満など無かった。
ただ、パートのおばちゃん連中から「おしん」というニックネームを付けられ、オラのプライドは傷付いた。

都会の思い出をボストンバッグに詰め込み、右手にぶら下げて、オラは汽車を降りる。
久し振りに見る、我が故郷。
改札を出て20㎞ほと歩くと、両親が待つ我が家。
胸を張って堂々と歩きたいが、無意識のうちに、都会で負けた負い目を感じているのだろうか?
下を向き、とぼとぼ歩く。

と、「krmく~ん!」。
振り返る。
道子だ。
隣の隣(8㎞先)に住む道子。
子供の頃、彼女には意地悪もしたが、今思うと、それは愛情の裏返しだったのかも知れない。
夕日を浴びながら、田んぼの畦道をふたり並んで歩く。
「都会はよぉ…」
他愛も無い話をする合間、彼女の横顔をちらりと見る。
北川景子似。
しかも、家は大地主。
オラは、彼女のルックスと財産に惹かれた。

実家に戻ると、畑仕事の毎日。
子供の頃から真似事はしていたので、特に苦労を感じなかったが、どうも集中できない。
頭を過るのは、道子。
道子のルックスと財産。

道子…。
財産…。
心が張り裂けそうだ。
早く彼女に伝えたい。
「オラは、グフと道子が好きだっぺ!」

と、妄想したところで、さほどの時間潰しにもならず。
「どうしょーもないなぁ」
サドルに跨がり、クランクを回す。

つづく

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