(819)Bianchi ARIAで大阪臨海線を走って墓参り~樽井駅とSくん~

「狂ってる」
「確実にクレイジー」
そうとしか思えない、暴風にさらされた橋。
必死になって、なんとか渡り終えた(ロードバイクを押してね)。

先に進もう。
この日のゴール、うちの墓へ進もう。
ただ、予定通り、このまま海側のルートを走ろう…という気にはならない。
横風が怖すぎるため、海からは離れたい。
もう、予定のルートもクソも無い。

泉佐野市周辺の土地勘は無いが、墓地への方向は分かる。
「とりあえず、南東に走ったら何とかなるやろ」
クランクを回す。

踏み切り、スーパー、田舎の町並み。
初めて走る道で初めて見る景色は、何かと新鮮に感じられたが、「現在地と墓地へのルートを確認したいよなぁ」と思う。
「適当なところで休憩しながら、Google Mapやな」
少し進むと、小さなロータリーが見えた。
「ここで休憩しよか」
脚を止める。

ボトルホルダーからスマートフォンを取り出し、現在地を確認。
「おぉ、今、樽井駅におるんかぁ」
ロータリーから少し進み、駅舎の正面へ。
「おぉ、ここが樽井かぁ」

樽井駅。
大阪府泉南市にある駅。
正直、俺の生活圏内ではない。
樽井の町に足を踏み入れたのは、この日が初めてだ。
でも、馴染みを感じる。
間違い無く、Sくんの影響で。

17、8年前、「一度は営業職を経験してみたいな」と思い、大阪の某中小企業を受け、中途採用された。
その時の同期がSくん。
年齢は俺よりひとつ下。
ぽっちゃりした体型で、人懐っこい性格の彼とは、すぐに仲良くなる。

毎朝、会社の最寄り駅で会い、ふたりで話しながら出社。
朝礼の後、営業に出て、お互い別々の訪問先に向かっている間も、Sくんからはよく電話が入った。
「お疲れ。KRMくん、今、どこ行ってんの?」
「お疲れ。俺、高槻やで。この後、茨木の予定やわ」
「そうか。俺はなぁ、今日は和歌山方面や。さっきもな、蛸地蔵(南海の駅)でなぁ、○○に顔出して、××さんとしゃべっててなぁ、この××さんって人がええ人で。ほんでな、その前に岸和田の△△に行って□□さんに契約してもらってんけど、□□さんって人が株で儲けてるらしいねん。ほんでなぁ…」
まるで付き合い始めた彼女のように、朝からの出来事を話し続けるSくん。
おかげで、彼が訪れた町、会った人とその人柄まで、俺は身近に感じられるようになった。
樽井もそのひとつだ。

Sくんとの一番の思い出は、ふたりで東京の営業所へ研修に行った時のこと。
新大阪で待ち合わせ、東京に着いてホテルにチェックイン…すると同時に、「ほな、行こか」。
俺は「どこに?飲み屋?」と思いつつも、彼に付いて行った先が、大井競馬場。
競馬に興味が無い俺の横で、ジョッキーの名前だか馬の名前を叫ぶ彼がいた。
翌日、営業所に顔を出し、「僕たちふたりで営業の勉強をしてきます」と宣言するSくん。
俺は「はぁ?」だ。
そんな話、聞いていない。
我々を迎え入れる東京の社員は、おそらく、我々のために段取りしてくれていたこともあるだろうに。
営業所を出て、「KRMくん、まずは原宿に行こか」と言われ、付いて行く…と、営業の勉強でも何でも無い。
彼はクレープ屋に向かい、美味そうにクレープを食った。
その後、またSくんの提案でステーキ屋へ。
ホール係の姉ちゃんに、「これ、安いし美味いやん!めっちゃ美味いやん!」という、いらん絡みをするSくん。
「大阪の人間が一番嫌われるパターンやなぁ…」と、俺まで恥ずかしくなった。

Sくんと過ごした日々は、確か、1年半ほど。
「そろそろ、携帯の開発に戻ろうか」と、俺は会社を辞める。
以来、彼とは会っていない。

スマホの画面を見詰め、樽井駅から墓地までのルートを調べながら、ふと「Sくん、元気にしてるんやろか?」と思う。
そして、すぐに「あ、いや、元気にしてへんな」。
思い出した。
彼は、もう、この世にいない。

俺が会社を辞めてから、Sくんとは何度かメールのやりとりをし、一度、お客さんになってくれそうな人を紹介したことがある。
それからは、徐々に連絡が減り、彼の近況については、共通の知人から聞いていた。
「S、あいつ、独立して自分で会社を興すらしいで」
「最近、S、結婚したわぁ」
「この前な、S、子供できたって喜んでたで」
「今なぁ、S、病気で入院してるわぁ」
「S、死んだわ」

ぼんやりと駅舎を眺めた後、目を閉じて「Sくん、成仏しろよぉ」。
まぁ、それはそれとして、俺は墓場に向かわなければ。
まだ、墓参りの途中だ。
そう、墓場に向かわなければ。
まぁ、それはそれとして、新たな問題を抱えるわけだが。

つづく

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