(286)伊勢志摩を走る。~2日目 頑張る人の背中を後押ししたくなる~

登りが続き、スローペースを嫌ったのか、Aさんは前に出て我が道を突き進む。
残された俺とBさん。
「俺もAさんを追おうか」とダンシングで登りだしたが、「Bさんをひとり置いていくのもかわいそうかな」。
Bさんのペースに合わせ、俺はクランクを回したり止めたり。
これまでも何度かあったシチュエーションだ。

この日、一緒に走って、Bさんを見直したという気持ちが俺にはある。
「この人をフォローしてあげたいな」という気持ちがある。
彼を捨てて、俺だけ先には進めない。

Bさんは無法者だ。
今回のイベント、伊勢志摩サイクリングフェスティバルをスタートするまでのBさんの罪状を以下に列挙すると…。

・出発の際、Bさん自身で設定した待ち合わせ時間に遅刻。
・出発の2日ほど前に自転車に行き、輪行バッグに自転車を収納する方法を教えてもらったのにも関わらず、収納する以前にホイールの外し方すら理解できていない。
・代わりに俺がばらしたが、手伝った俺の手が真っ黒け(普段からまったくメンテナンスをしていない証拠)。
・巻き添えを食ったせいで、予定していた電車に俺まで乗れない。
・同じく、普段からまったくメンテナンスをしていない上、ホイールの脱着の仕方について基本を理解していないため、後輪がはまらない(無駄な時間が費やし、ツアーの集合時間に遅れる。面識の無い他の参加者まで巻き添え)。
・飲食店に入り、他で買ってきた缶ビールを飲もうとする。
・べろんべろんになってジェットコースターに乗る(そして死にかけ)。
・飲み屋に行けば、店員に無駄な絡み(一緒にいて、死ぬほど恥ずかしかった)。

自転車初心者で、子供ならわかる。
ただ、過去にマウンテンバイクであちこち行った経験があり、50前の男がこれである。
まぁ、自転車は抜きにして、まず、「この人は大人だ」と思って(常識で考えて)接しているのだが、徹底的に裏切ってくるのだ。
常軌を逸している。

しかし、この日、一緒に走っていて、Bさんの良い点をひとつだけ見付けた。
それは、無言で脚を回していること。
以前、ロングライドした時は、無意味にわめきながら走っていたが、今回は走りに集中している(まぁ、それが普通なのだが)。
となると、俺の中に「この人なりに真剣なんやな。フォローしてあげたいな」という気持ちが芽生える。

ゆっくり登りながら、何度も振り返り、Bさんの様子を見る。
苦しそうに脚を回している。
「頑張れ、頑張れ」と念じながら、俺も脚を回す。
「ちょっと距離が離れてもうたかも」と思うたびに、また振り返り、Bさんの位置を確認する。
少し傾斜が緩くなり、「もう大丈夫です」とBさんが前に出たが、「めっちゃきつそうやん」。

なんとか登りきった先に、アーチ型の橋が見えた。
志摩パールブリッジ。
十人ほどのイベント参加者、自転車乗りが欄干にロードを立て掛け、景色を眺めている。
「Bさん、疲れてるやろから休憩した方がええよな」と思い、「ちょっと待って下さい。俺、写真撮りたいんで、脚を止めましょう」。
Bさんに提案した。

サドルから降り、バックポケットからスマートフォンを出そうと背中に手を回していると、5mほど先にAさん。
休憩しているAさんがいるではないか。
近寄って、「お疲れ様です」。
「Bさん、すっごい頑張って登ってきましたよ。見直しましたわ」。
そうAさんに伝えようとしたが、視界の隅で何かわめいているBさんの声が聞こえ、俺は口をつぐんだ。

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