(324)Nironeを譲って喜んでもらう。-2

RさんにNironeを届けなくてはならない。
人生初ロードバイクのRさん。
SPD-SLシューズなど持っているはずもないのに、俺が譲るNironeのペダルはSPD-SLのまま。
なんとか口で誤魔化すしかない。
それはそれとして、「一応、自分が実験台になろう」と、スニーカーを履いてRさんの元に向かって走った。

「スニーカーでも、親指の根元で踏んだらちゃんと進むやん」。
ちょっと感動。
「SPD-SLって、よく出来てるんやなぁ」。
心の底からそう思った。

「お譲りするのは、これですわ」と伝えると、いきなりサドルに股がろうとするRさん。
ひいひい言うてる。
「予備知識0でロードに乗る人って、これするよな。全国に何人おるんやろ?めっちゃおるやろなぁ」とか考えながら、ぼけっとRさんを見守りそうになったが、「あかんわ」と。
「最低限、教えられることは教えとこ」と。
「まずね、サドルじゃなくて、このトップチューブの上に乗ってみて下さい」。
「これがスタートする前、そして信号待ちなどで停止する時の定位置です」。
口で説明してみたが、「やってるん見せた方が早いわ」と思い、実演。
「股間はトップチューブの上。右足はペダルの上。ハンドルのブラケットに手を掛ける。走り出す前の基本姿勢はこれです」。
「見てて下さい。右足で踏み出す…の後にサドルに乗る」。
習慣となって体に染み付いた作業だが、口に出して教えていると、「俺ってなかなかやるやん」。
そんな気持ちになってくる。
もう、自分に酔いそう。
自分が発する言葉に酔いそう。
うん。
自分、大好き。

Rさんがブラケットを握った。
教えた通り、基本姿勢をしてから右足でペダルを踏み、走り出そうとしたその時…、「あ、俺、説明すんの忘れてた!」。
「ちょっと待って下さい!ブレーキはこれです。このレバーを引いて下さい」。
危うく命を奪うところだった。

「自分に酔ってる場合ではない。落ち着け、俺」。
そう自分に言い聞かせて、もうひとつ説明しなくてはならないことを口にした。
「ロードはね、基本的に足の親指の付け根に丸い部分があるでしょ?そこで踏むことを意識して下さい」。
「OK~」というノリで、Rさんは辺りを一周する旅に出た。

「ほんまに大丈夫か?」と心配しながら待っていると、5分ほどして帰ってきた。
「Rさん、どうでした?」。
「ロードをなめてましたわぁ。難しいですね。停止してから走り出すのに慣れてないので。ロードいうてもママチャリみたいなもんかなと思ってましたが、誤解でした」。
「ペダルはどうでした?踏みにくくなかったですか?」。
「それは大丈夫でした」。
俺は、心の底から「嘘やん!?」と思った。

「ほんまにええんか?」。
「ペダルのこと、このまま事情を説明せずほったらかしてもええんか?」。
後々、自己嫌悪に陥りそうな気がする。
また、このままでは、Rさんに100%の快適なサイクリングを楽しんでもらえないかも知れない。
念のために言っておこう。
「このペダルはですね、本来、専用のシューズがありましてね、スニーカーではなんたらかんたら」。
Rさんは、「別に気にならないですよ」と。
「それでもですね、自分は、一応、フラットペダルを用意しました。よかったら使って下さい。あと、ペダルレンチもよければ。グリスは持ってます?これもペダル交換に使うので。あ、六角レンチも持ってます?」。
「はぁ。六角レンチはありますが、では、一応、それ以外のものはお借りしておきます」とRさん。
正直、俺は「ほんまにええんか?」と思った。
連発になるが。

「ほんま、ロードをなめてましたわ。簡単には乗れないですね。まず、乗って止まるに慣れないとダメなんで、とりあえず近所を走りながら勉強します。サイクリングロードを走るのは、満足に乗れるようになってからにします」。
Rさんの言葉に、「その通り」と思う俺。
しばらくすると、Rさんはスマートフォンをいじりだし、Nironeをカスタマイズしたいのだろう。
楽しそうに、個性的なデザインのボトルやバーテープをamazonで探している。
それを見て、俺は少し嬉しくなった。

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