(622)友達が減る瞬間-1

3月のある日曜日の夕方。
阪神の梅田駅で電車を降り、いい歳こいて俺は駆け足で地下街を走った。
シルベストサイクルに向けて。

2月の末に、このブログを読んでくれているSさん(40代 男性)から、「来月にでも三重県に来ませんか?ロードバイクに乗って牡蠣小屋に行きませんか?」と誘われた…のはいいが、サイコンのパーツやソックスの予備など揃えておきたいものがある。
準備を整えて、三重の旅に臨みたい。

「はぁ…、はぁ…」。
人がまばらな地下街の中、肩で息をする俺。
「100mぐらいしか走ってへんのに疲れてきたわ…」。
毎日毎日ではないが、それなりにジョギングをする俺は、それなりに走る能力があると思っていた。
しかし、それは勘違いだったのか。
それとも、ジーンズにジャケット姿で走っているせいなのか。
とにかく、遅い上にすぐに疲れた。
「ロードに乗っても走っても、結局このパターンか…」。
自分が情けない。

シルベストサイクルに着いた。
商品を手に取り、買うかどうかゆっくりと判断したい。
ただ、時間が気になる。
「あかんわ。のんびり買い物してる場合ちゃうわ」。
何も買わず店を出て、西梅田駅に向け、また地下街を走る。

この後、俺には予定がある。
中学時代からの友人であり、今も付き合いがあるAに、「難波のホルモン屋で飲もうや」と誘われている。
また、中学時代からの友人であり、今も付き合いのあるBも来るので、ふたりを待たすわけにはいかない。
走りながらスマートフォンアプリの「乗換ナビ」をチェックし、「次の電車に乗れたら遅刻せんですむわ」。
心の中でほっとしながらも、脚を止めず走り続けた(遅いなりにね)。

地下鉄四ツ橋線の西梅田から電車に乗り込み、難波に向かう。
車内においても乗換ナビを起動し、何度も何度も同じ画面を見て、「大丈夫。この電車に乗ったってことは遅刻せえへん」と安心を得た。
が、想定外の出来事に直面する。

四ツ橋線の難波駅を降り、改札を出たところ、「ここ、どこやねん…?」。
俺は大阪市内で生まれ育ったため、難波においてもそれなりに土地勘があると自負していた。
しかし、四ツ橋線は盲点だった。
よく考えてみると、地下鉄御堂筋線と千日前線の難波駅は何度も利用したが、四ツ橋線はこの日が初めてかも知れない。

「落ち着け、俺…」。
Google Mapを起動し、現在地を確認する。
「え!?確かにここは難波やけど、難波の離れやんけ!」。
「しかも、店まで遠くなったやんけ!」。

このままでは遅刻してしまう。
友人A&Bを待たせてしまう。
だが、あきらめてはいけない。
自分を信じて、俺は難波の地下街を走った。

適当なところで階段を駆け上がる。
地下街から地上に出た後、力を振り絞って俺は走った。
「雨降ってるやんけ。鬱陶しいなぁ」。
傘を差したいところだが、走りにくくなるのは嫌だ。
少々、濡れてもいい。
「遅刻しないこと」の方が優先順位は高い。

死に物狂いで走ったおかげで(遅いけど)、予約時間の5分前、なんとか店に着いた。
「耐えた…」。
店の扉を開け、「Aで予約していたものですが」。
用意された席に案内され、「はぁ、疲れきったわ…」。
ぐったりする俺。

梅田の地下街を走り、難波の地下街も地上も走り、約束の時間になんとか間に合った。
「よく走ったね。お前は頑張った」と自分を褒めたい気分だ。
が、気に入らない。
「あいつら、まだ来てへんやんけ…」。

がくっと顔を伏せていると、男性店員が話し掛けてきた。
「あと2名様はもう来られますか?」。
正直、「知らんわ!」「こっちが聞きたいわ!」と叫びたくなったが、「もうすぐだと思います」。
俺は笑顔でそう返した。

予約時間を1分か2分過ぎたところで、友人Bが登場。
「ちょっと遅れたね。ごめん。krmくん、待った?」。
「俺もさっき着いたとこやわ。それよりも、四ツ橋線の難波から走ってきたんやけど…疲れたわ」。
「え…。ここまで二駅分ぐらいの距離あるで」。
とかなんとか話していると、「お料理はそろそろ用意していいですか?」と男性店員。
俺はBと顔を見合せ、「料理はもうちょっと待ってもらえますか?それより、生ビールをふたつお願いします」。

とりあえず2人で乾杯。
そして、スマホの時計に目をやると、予約時間より15分経過。
予約した本人(A)が来ない。

「ありえへんやろ…」の言葉が口から出そうになったタイミングで、やっとA登場。
「お疲れ」。
「お疲れ」。
ふて腐れたAの面構えが、俺をイラつかせた。

つづく

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