(674)痛風に苦しむロード乗りにはなりたくない-1

ある休日の昼間。
予定も無く、ただダラダラと布団の上で寝転がる。
「まぁ、酒でも飲みながら野球中継を観て、有意義な時間を過ごそうかぁ」。
そう思ったが、試合開始まで時間がある。
俺はサイクルジャージに着替えて、サドルに股がった。

家から近所のサイクリングロードを往復すると、約1時間。
距離は短いが、適度な運動にはなる。
「では、出発」。
サイクリングロードに向けてクランクを回す。
と、サイコンが表示する時速は「0㎞/h」。
「何や?またセンサーの位置がずれたみたいやな」。
脚を止め、フロントフォークに手を伸ばす。
「多分、この辺でOKやろ」。

少し進んだが、時速は「0㎞/h」。
「おかしいよな」。
また地面に足を付け、フロントフォークに手を伸ばしていると、前から俺と同世代(らしい。40代)の男性がこちらに向かって歩いてきた。
苦悶の表情で。
仮に、彼を歩行者Aとする。

歩行者Aは、右足を引きずりながら歩いている。
とても遅く、とても苦しそうに。
「うっわぁ。親近感、めっちゃ湧いてきたわぁ」。
俺もつい先日まで右足を引きずりながら歩いていた。
風呂に入る際、浴室の敷居に右足をぶつけしまい、突き指したからだ。
「Aよ。お前の苦しみはわかる。頑張れよ」。
そう言い残し(心の中で)、俺はサイクリングロードに向かった。

橋のたもとに設置されたスロープを降り、川を右手に見つつ北へ。
少し進むと、道は松の木に囲まれた。
もう10年ほど見続けた景色だ。
特に感動も無く、ただひたすらクランクを回す。

脚はせっせと回しているが、頭は暇。
考えることと言えば、一方的に馴染みを持った歩行者Aのこと。
「あの人、苦しそうに歩いてたけど、無事にたどり着けたやろか?」。
「駅に向かってたのか、スーパーに向かってたのか知らんけど、ちゃんとたどり着けたやろか?」。
「そっれにしても、俺と同様、足を突き指した人が近所におるとは意外やったわ」。
「なかなか間抜けな話やで」。
「いやいや、ちょっと待て。Aも突き指とは限らんで」。
「そうか?包帯巻いてるわけでも、湿布を貼ってるわけでもなかったやろ。ギブス付けてるようにようにも見えへんかったし、骨折とか怪我ちゃうやろ?」。
「いや、昔から足が悪い人かも知れんやろ」。
「確かにそうやな。突き指って決め付けた俺は、すごく失礼やった」。
「あと、痛風かも知れんで」。

「痛風…?」。
反射的に脚を止める。
「『痛風』って、とんでもなく恐ろしい言葉が頭に浮かんでもうたわ…」。

俺は痛風になりたくない。
痛風に苦しむロード乗りにはなりたくない。
と言うのも…。

つづく

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