(753)人妻と会う。

7月のある日曜日。
近所のサイクリングロードを、「向かい風、鬱陶しいなぁ」と思いながら必死になって10㎞ほど進み、折り返す。
そして、10㎞ほど「追い風って最高だね」。
家に帰って水風呂に入り、休日のルーティンを終えた。

家でゴロゴロし、時間を潰す。
この後、小中学校時代の同級生、人妻Tさんと飲みに行く予定だが、それまでゴロゴロしたい。
ちなみに、Tさんについては以前にも記事に書いた。

車の流れが止まり、身動きが取れない俺。左足を路面に着いて、トップチューブに跨がったままうんざりしていると、TさんからLineが入った。「久...

店はTさんの方で予約している。
梅田のイタリアンレストランに13時。
ゴロゴロしながらスマートフォンの時計を確認すると、まだまだ時間がある。
暑さのせいだろう。
動きたくない。
引き続きゴロゴロ。

ベランダから差し込む日光が嫌がらせのように思え、カーテンを閉める。
「うっわぁ…」。
徐々に蒸し暑くなり、いかつい不快感。
蝉の鳴き声も、不快感を増幅させている。
エアコンがぶっ壊れたせいもある。
横になっているだけでも汗が流れ出し、「どうしょうもないなぁ…」。
打開策として、もう一度水風呂に入ったが、またしばらくゴロゴロしていると汗…。

「なかなかの地獄やわ…」。
気温を確かめようと、スマホを手に取る。
「勘弁してくれよ…」。
うんざりだ。
仕方が無い。
もうひとつの打開策だ。
「エアコンの無い時代、昔の人達は暑苦しい日々を過ごしていたに違いない。今の俺と同じように…」。
妄想する。
同じ環境の人間をイメージすることにより、心にゆとりを持たせる狙いだ。

「いや、ちょっとまてよ」。
もう一度、スマホの画面に目をやる。
「こんな時間か…」。
12時を過ぎている。
俺の中で、「梅田まで20分もあれば着くわ」と余裕をかましていたが、「20分」とは、飽くまで電車に乗っている時間。
最寄り駅まで移動し、また、梅田の駅からイタリアンレストランに移動する時間も計算に入れなければならない。
「と、いうことは…や」。
ゴロゴロしている場合ではない。
飛び起きて水風呂に入り、着替えて家を出た。

「外の方が涼しいやんけ。どういうことや?」。
ぶつぶつ言いながら最寄り駅まで歩く。
が、念には念を押しておこう。
「GOや」。
テンポよく両腕を振り、脚を回転させ、俺は走った。

電車にはうまい具合に乗れ、遅刻の可能性は、よほどのことが無い限り0だ。
「歩く」より「走る」を選択した自分の、隠れたファインプレーにスタンディングオベーション(実際には席に座ってるんですけどね)。

冷房の効いた車内で涼み、20分後、梅田に着いた。
腰を上げ、電車を降りる。
と、ベルト付近に違和感。
パンツ(ズボンという意味でも下着という意味でも)が湿っている。
「汗のせいかぁ…」。
10年ほど前からロードバイクに乗り始め、体質が変わったことを自覚している。
汗かきになったと。
「ま、代謝がええのはええことや」。
そう思った次の瞬間、「はっ!」。
手を尻に回す。
バックポケットから切符を取り出し、「うっわぁ…。切符も汗で湿っているやんけ…」。

問題は自動改札機だ。
湿った切符で通過できるかどうか。
もし引っ掛かれば、無駄な時間が生じ、Tさんと待ち合わせている13時に遅れるかも知れない。
いや、遅刻はダメだ。
遅刻などしないのが当たり前。
どんなことがあっても、5分前にはイタリアンレストランに着きたい。

「勝負!」。
湿った切符を自動改札機に投入。
「通してくれ…、通してくれ…」と祈りながら一歩目を踏み出した時、「バシッ!」。
ゲートが閉まった。

最悪すぎる。
こんなところで時間をロスしたくない。
キョロキョロ…。
キョロキョロ…。
辺りを見回す。
「おいおい…」。
駅員を呼びたいが、近くにはそれらしき人の姿は無い。
仕方が無い。
駅長室に向かい、駅員に事情を説明。
なんとか改札を通れた。

地下街を小走りで進む。
どのルートを選択し、どのエレベーターに乗れば最短で着くかは調査済み。
これも隠れたファインプレー。
スタンディングオベーションを送りたい(俺に)。

入店。
「13時にTで予約しているものです」。
店員に伝え、席に案内してもらう。
と、Tさんはいない。
席に座り、「今までの苦労は何やってん?」。
そんなことを考えていると、LINEが入った。
「ごめん。遅れるわぁ」。
「梅田の地下街、分かれへんねんもーん」。

うつむき、そしてひとり呟く。
「お前が予約した店やろ…」。
「行き方も分からん店、予約したんか…?」。

つづく

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする