(763)「krmは死にました」との噂

日曜。
近所のサイクリングロード。
クランクを回しつつ、物憂い気持ちが募る。
うなだれてサイコンに目を向けると、「12:20」。
飲み会は13時。

確か、1ヶ月ほど前だったと思う。
中学の同級生Aから「おう、krm。○○日の日曜、13時に大阪の××で飲もうや」。
そう誘われた。
そして、俺はすぐに「時間が調整できたら行くわ」。
適当に返す。
本音を言うと、最初から飲み会に行くつもりなど無かった。
微塵も。

自分で言うのも何だが、俺は付き合いのいい方だと思う。
誘われたら、忙しくてもなるべく行けるよう時間を調整する。
誘ってくれた相手の面子を潰したくないからだ。
しかし…だ。
「こいつの誘いには乗ってはいけない」。
脳内に、そんなブラックリストがある。
今のところ、ブラックリストには2名の名前が登録されており、その1人がA。

Aは悪いやつではない。
悪いやつではないが、頭が悪い。
悪い意味で体育会系のノリが染み付いており、無駄にテンションが高い。
酒の席において「自分が中心」と勘違いしているタイプ。
ちなみに、彼については以前にも記事に書いた。
「友達が減った」みたいなタイトルだったと思う。

数日前、ミュートにしていたLINEグループを確認すると、同級生BとCも飲み会に顔を出すらしい。
Bはいつもぼんやりしているが、人様にとってマイナスになる人間ではない。
Cは子供の頃によく遊び、高校からは疎遠に。
ただ、数年前、久々に会って、いい意味で変わらない印象を受けた。

飲み会(おっさん数人の)。
俺は参加するつもりなど無いが、Aを交えて酒を飲み、共に過ごす時間を想像する。

「今日のレース、馬券買ったんやけどなぁ」。
いつも通り、Aは競馬について話し始めるだろう。
俺が競馬に興味が無いことを知っていて、気持ち良さそうに競馬について長々と語るA。
俺は無言でスマートフォンをいじる。
いつも通り。

「この前なぁ、打ちっぱなしに行ってなぁ」。
次に、いつも通りAはゴルフについて話し始めるだろう。
俺がゴルフしないのを知っていて、気持ち良さそうにゴルフについて長々と語るA。
俺は無言でスマホをいじる。
いつも通り。

「いやぁ、昨日、ボロ勝ちしてなぁ」。
いつも通り、Aはパチンコについて話し始めるだろう。
俺がパチンコを打たないのを知っていて、気持ち良さそうにパチンコについて長々と語るA。
俺は無言でスマホをいじる。
いつも通り。

「Bは、何レース目を買ったん?」。
また競馬の話。
次にゴルフで、パチンコ…と来て、また競馬に戻る。
その間、俺は何とも言えない嫌悪感を抱く。
嫌でも大人として見られる年齢になって、「相手がどう思うか」を考えられず、無邪気に好きなことを語り続けるAを軽蔑する。
そして、気付くのだ。
「時間の無駄もええとこやな」と。

それにしても理解できないのが、競馬もゴルフもパチンコにも興味が無い俺を誘うこと。
「共通の趣味を持つ人間だけ集まって飲んだらええやん」。
素直にそう思うのだが、何故、俺を誘うのか?
3ヶ月に1回ペースで。

ガードレールにロードバイクを立て掛け、考える。
「何故?」。
「あ、もしかして…」。
Aは繊細さなど微塵も無い人間だが、妙に人懐っこいところがあり、仲間意識も強い。
おそらく、中学時代から付き合いのある俺を、何を言っても許され、共感しあえる「ファミリー」リストに入れているのだろう。
頼むから、除名してくれ。

「さぁ、帰ろか」。
サドルに跨がる時、サイコンが目に入った。
「13時か。飲み始めてるんやろなぁ。関係無いけど」。
クランクを回す。

一応、前日に「仕事が忙しいから不参加」とLINEを入れておいたので、飲み会と俺は関係無い。
無関係。
ただ、酔っ払ったAから「今からこっち来いよぉ。あっはっは」と電話があるかも知れない。
スマホ、電源OFF。

月曜日。
会社。
昼休みにLINEグループを確認すると、Aからのメッセージ。
「みんな、昨日は楽しかったなー。ありがとー!krmも次は来いよー」。
溜め息が出る。
「行くわけないやろ、ボケ!」だ。

それにしても困った。
俺はAからの誘いを連続で断っている。
何も今回だけではないのだ。
「なるべくなら、そろそろ気付いてほしいなぁ」と思う。
「もう、俺はお前とは関わり合いになりたくの…に気付いてほしいなぁ」と思う。
が、レベル的に無理だろう。
自分中心のAには、人の思いなど伝わらない。

ならば…だ。
俺の方からはっきり言うべきだ。
「おい、A。長い付き合いやったけど、俺、アホとは関わり合いになりたくないねん。ではっ」と。
うん、それで済むことだ。
分かっている。
が、ただ頭が悪いだけで悪気の無いA…を傷付けることに抵抗を感じる。

なら、やはりAの方で俺の気持ちを察してほしい。
が、それは無理。
レベル的に無理。

「結局、どないしたらええねん…?」。
頭を抱える。
これからも誘われるのか。
「おう、krm!飲みに行こうや」と。

嫌だ。
それは嫌だ。
もう、いっそのこと、他の同級生に「『krmは死にました』って噂を流してくれ」と頼もうか。

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