周りに高いビルが無いからだろう。
目立ちまくりの梅田スカイビルが、すぐそこに見えた。
が、近くに見えて、駅からはそこそこの距離。
確か、妙に長い地下道を進まなければならない。
退屈な気分で。
「思い出したわぁ。鬱陶しいよなぁ」
「だから、ここ来るん嫌やねん…」

初めてスカイビルを訪れたのは、まだ学生の頃。
確か、アルバイトの面接だったと思う。
「だっる…」
「どんだけ歩かせんねん…?」
1回目で懲りた。
が、社会人になって2回目が訪れる。
同じ会社の先輩に誘われて、転職セミナーに参加。
その時も、心の中でぼやきまくった。
「だっる…」
「何が『梅田スカイビル』やねん?こんなもん、『梅田』ちゃうやんけ?」
また、ビル内の映画館に何度か足を運んだが、その度にムカムカ。
「だっる…」
「俺に何の恨みがあるんじゃ!?」
歩きながら、嫌な記憶が頭を巡る。
「はぁ、まだかよ…」
相変わらず、スカイビルはすぐそこに見える。
が、たどり着かない。
なかなか。

地下道に入り、トボトボ…トボトボ…。
歩きながら、スマートフォンで時間を確認する。
「試合開始まで、まだ20分あるなぁ」
「20分…でたどり着くんやろか?」
「余裕を持って家を出たつもりやけど、結局、こんなもんか…」
「遠いねん…。スカイビル…」

不安を抱き、不平を呟きつつ歩く。
と、「やっとかよ…」。
スカイビルに着いたのはいい。
ただ、会場となる「ステラホール」はどこ?
確か、GLEATのサイトには、スカイビルの中と記載されていた気がする。
何階だろう?
不安だ。
改札を入ってから、ホームまでやたらと長い駅…みたいなパターンは困る。
もう、試合開始まで15分しかない。
スマホで確認したところ、ステラホールは3階。
そもそも、1階に専用の入口があるとのこと。
分かりやすくていい。
迷って時間を浪費する懸念は小さくなった。
「OK」
後は、すんなり入場して席に着きたい。

が、そうは問屋が卸さない。
心の底から卸してほしかったが、卸してくれなかった。
入場の際、係員にチケットを渡そうとしたところ、「ちょっと待って下さい」と。
どうやら、「大阪コロナ追跡システム」に登録する必要があるらしい。
入口の前に提示されたボードのQRコードを読み取り、サイトにアクセス。
空メールを送って、返信メールのURLを踏む…と。
もう試合が始まる。
俺は焦りながら、空メールを送った。
が、メールが来ない。
返信メールが来ない。
「早くしろよ、ボケ!」と思いながら、空メールを3通ほど送り、「やっと返ってきたわ…」。
登録を終え、入場する。
会場は小さかったが、満員。
「『前売り券完売』とか『当日券無し』って発表されてたけど、あれ、ほんまやってんなぁ」。
感心しつつ自分の席を探し、「ここかぁ」。
何とか試合前に着き、安堵する俺。
「さてさて、熱いファイトを頼むで」
顔を上げ、リングに目を向ける。
と、絶望的な気分に。
「これはあかんわ…」
「やってもうなぁ…」
「最悪や…」
つづく

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