(858)負の連鎖~ロードバイクに乗れない1日目~

1日目

切っ掛けは、ほんの些細なことだった。
いつもより早く起きた俺は、ベランダを開けた後、風呂に浸かる。
ルーチンワーク。
体を温め、汗を掻き、ただぼんやりと仕事の予定を組み立てるのだ。

俺が担当している作業の納期は明日。
既にやるべきことはやり終えたし、取引先にも内々にOKを貰っている。
まぁ、これまでの努力がひとつの結果として認められ、たったの2日…ではあるが、ボーナスとして休暇を得られる。
何とか乗り切りたい。
今日と明日を。

顔を上げ、天井を見詰め考える。
「本当に大丈夫か?」
「ちょっとしたことでもいい。何か抜けは無いか?」
「やり残したことは無いか?」

「多分、無いよ」
脳内でそう答えると同時に、「あたっ…」。
左目に小さな痛み。
冷静に考えると、天井から落ちた水滴が左目に当たっただけのこと…だが、ロード乗りの習性だろう。
反射的に「ユスリカが目に入った!」と思い、俺は目をこすった。

「15時に○○さんから連絡が入る予定やったなぁ」
「まぁ、××の件やろから、14時までに簡単な資料を用意しとこか」
「17時には△△の打ち合わせがあって、多分やけど10分ぐらいで終わって、一応、18時には××の件で○○さんに確認の連絡を入れとこか」
仕事の予定を立てながらも、気になる。
どうも気になる。
左目が気になる。
そして、「めばちこになるから、こすったらあかんで」と頭では分かっているが、何故だろう?
ついついこすってしまう。

風呂から上がり、鏡を覗くと、「うっわ…」。
左目は充血し、真っ赤っ赤。
「ヤバいなぁ…」と思う。
今日1日、会う人会う人から「何で左目が赤いんですか?」と聞かれるのか?
いちいち、いちいち…。
また、聞かれなくても…だ。
心の中で、「こいつ、何で左目だけ赤いねん?」と思われる。
間違い無く。

面倒くさいことになった。
もう、今日は家から出たくない。
ひきこもりたい。
仕事も休みたい。
しかし、うちの会社は「目が充血しているので休みます」は通用しない社風である(どこでもか)。
仕方が無い。
嫌でも出社するしかない。

ドライヤーで髪を乾かしながら、また鏡を見て左目を確認する。
「あかんなぁ…」
「これ、片方だけ真っ赤っ赤やから違和感あるんやろなぁ。不自然やわ」
「じゃあ、両方とも充血してたら自然な感じ?」
「いやぁ、それはそれで怖いで」
そんな会話を交わし盛り上がっていると(脳内で)、思い出した。
「確か、薬箱に目薬があったよな」

まぁ、薬箱といっても、Amazonの空箱に薬を放り込んだだけのもの。
「お、あったわあったわ」。
目薬を取り出し、左目に注す。
劇的に回復…するかどうかは分からないが、おまじないにはなるだろう。
目薬をポケットに入れ、俺はロードバイクと共に家を出た。

サイコンの電源を入れ、クランクを回し始める。
と、すぐに違和感。
左目に違和感。
おかしい。
涙が出て止まらない。
また、それが気になって左目を閉じたが、片目では視界が悪く「怖いわ!」だ。
ロードに乗れる状態ではない。

家へ戻り、ロードを靴箱に立て掛ける。
さて、どうすべきか?
ロード通勤は無理…として、歩くか?
いや、電車か?
参った。
会社まで、徒歩では少し遠い。
やや鬱陶しい距離。
ただ、電車に乗るほどでもない距離だ。
「時間に余裕あるし、運動やと思って歩こかぁ」
左目をつぶり、下を向いて会社へ向かう俺。

つづく

にほんブログ村 自転車ブログ ロードバイクへ
にほんブログ村

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする