(892)警官と対峙する。

年末の話。
世間は休みに入っているが、俺には仕事が残っていた。
出社しなければならない。
ただ、朝から晩まで根を詰めて向き合うほどの作業量でもない。
「会社、昼の1時か2時ぐらいに行ったらええやろ」
「本来は休みなんやしなぁ」
「近所のサイクリングロードを1往復して、そのまま会社行こかぁ」

走り慣れたサイクリングロードには安心感がある。
ただ、刺激が無い。
脚は回しているが、頭が退屈だ。
「クロスバイクを買った時は、1日に何往復もしてたけど、今では考えられへんよなぁ」
「俺、よっぽど嬉しかったんやろなぁ」

宝塚の市役所が見える。
もう、折り返し地点だ。
「そろそろ、会社に行こかぁ」
「あ~、面倒くさっ!」
来た道を戻り、サイクリングロードから車道に出た。

しばらく走って、うちの事務所が入る雑居ビルの前へ。
「何やろ?」
「妙に『し~ん』としてるなぁ」
SPD-SLシューズにクリートカバーを嵌めながら、「今日は俺ひとりかぁ」。
ビルには、事務所もあれば飲食店も入っている。
どうやら、どこも年末年始の休みに入ったようで、人の気配を感じない。
「騒がしくないのはええなぁ。作業に集中できるわ」

トップチューブを右手で支え、そして右肩に引っ掛け、ビルの階段を上がる。
と、人の気配。
「こんにちはー」
「こんにちはー」
2階廊下の奥から、警備員の格好をした男女から声を掛けられた。
「あ、こんにちは」
「こんにちは」
挨拶を返す。

「え?」
「ちょっと待てよ」
違和感を覚える俺。
うちの事務所が入るビルは、警備員を雇っていない。
と言うことは、工事の予定でもあるのか?
いや、そんな話は聞いていない。
「だったら、この人らは何者や?」
反射的に、「警察の人らやわ」と思った。

「ガチャ」
事務所の鍵を開け、席に着いてパソコンを起動する。
「そっれにしてもなぁ」
どうも気になる。
警官は、どのような用件でこのビルを訪れたのだろうか?
何だろう?
気のせいか、犯罪の臭いがする。
「あかんわぁ」
気になって気になって仕方が無い。
仕事に集中できない。

と、事務所の前で人の気配。
「コンコン、コンコン」
心臓が止まりそうになった。
ドアがノックされているではないか。
「まさか…、警官か…?」
「俺、何もしてないで…」
「ここはひとつ、無視しよか?」
「いや、余計に疑われるわ」

席を立ち、ドキドキしながらドアを開ける。
「あぁ、やっぱり…。さっきの警官やぁ…」
勘弁してほしい。
目の前には、小柄で可愛い顔立ちの女性警官。
もうひとりは、背の高いヤングな男性警官。
ドキドキ…。
ドキドキ…。

「あの、伺いたいことがあるのですが」
女性警官が口を開いた。
「え…、何でしょうか…?」
動揺しまくっていると、次は女性警官のターン。
「先日、大阪で放火事件がありましたよね?」
知っている。
ネットニュースで見た。
西梅田の心療内科クリニックで起こった放火事件だ。
確か、容疑者は自爆して虫の息…だったと思うが、それが何故?
それが何故、俺に繋がる?
「俺、何もしてへんで」だが、場の空気を読んで「私がやりました」と言わなければならないのか?
いや、そんなアホな話は無い。

「あのような放火事件が発生しないよう、この辺りのビルを巡視しているのですが」
「はい…」
「それで、このビルの防火管理体制について確認したいと思い」
「えと…、何年か前にですね…、各事務所、店舗に消火器を設置するルールができまして、自分はコーナンまで買いに行きました…。それ以上、それ以外のことは分かりません…」
「そうですか。このビルには管理組合のようなものがありますか?」
「はい…。○○号室で商売されてる××さんが組合のトップなので、××さんに聞けば分かると思います…」
「そうですか。分かりました」

警官が去り、俺は席に戻る。
パソコンと向き合いファイルに目を通すが、「あかんわぁ」。
集中するまで、少し時間が掛かった。

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