(1001)母の病気-2

平日に休みを取った。
マイナンバーカードを受け取りに、役所へ行くためだ。
俺個人としては、「そんなもん、どうでもええやんけ」だが、胃がんを患う母親から「早く取りなさい」。
そう言われると、素直に従うしかない。

昼前に目が覚め、布団の上で考える。
「夕方に飲みに行く予定が入ってるから、それまでに役所へ行かなあかんなぁ」
「かと言って、役所に早く着きすぎて、飲み会まで無駄な時間が発生…は嫌やなぁ」
「うまい具合に調整せなあかん」
「まぁ、とりあえず、サイクリングロードを走ろか。時間に余裕あるし」

必死になって脚を回しながらも、頭の中は母親のこと。
「ほんまに癌なんか?」
「もうすぐ死んでまうんか?」
いくら考えても納得できない。
俺は、現実と向き合うことができない。

思い返すと、親孝行らしいことなど何もしていない。
両親を有馬に連れて行ったとか、北浜辺りの老舗料亭でご馳走したとか、そんなエピソードが見事に無い。
本当に、一度も無い。
実家近辺の焼鳥屋ですら無い。
参った。
「親孝行したいときには親はなし」
その諺の通りになってしまうのか。

1時間ほど走り、帰宅。
風呂に入って、「そろそろ行こかぁ」。
役所へ向かうため、電車に乗った…のはいいが、何か引っ掛かる。

「そう言えば…」
「あ、そう言えば…」
「交付通知書を持って出たけど、必要書類、それだけでよかったっけ?」
念のため、ネットで調べてみる。
と、他に本人確認書類が必要みたいだ。
参った。
俺は免許証もパスポートも持っていない。
携帯していない…ではなく、元から持っていない。
あるのは保険証のみ。
「これだけやと、具合が悪いな…」
焦りを覚えつつ、財布の中を調べる。
「あかんかぁ…」
銀行の通帳はあるが、住所の記載が無いため、本人確認として有効なのか自信が無い。

「電車、途中で降りて家に戻ろかぁ」
「んで、必要なもんをまとめて、また電車で役所へ…か」
「面倒くさいよなぁ」
「でもなぁ、今日行けへんかったら、また平日に休み取らなあかん。それ、いつになるねん?」
「とりあえず、このまま役所に行ってまお。事情を説明して、泣き落とすしかないな」

役所に着き、整理券を取ってしばらく待つ。
「めちゃめちゃ混んどんな。かなり時間が掛かりそうやけど、飲み会の時間までに終わるんやろか?」
不安を感じつつ席に座っていると、俺の番号が呼ばれた。

窓口へ。
「あの、マイナンバーカードを受け取りに来たんですが、本人確認書類、保険証しか持ってなくて…」
女性職員にそう言うと、「クレジットカードはお持ちですか?」と。
「はい、あります!あります!今、持ってます!楽天カードです!」
思いの外、すんなりと対応してもらえた。

また電車に乗り、友人が予約した店の近くまで来たが、「ちょっと早く着きすぎたなぁ」。
特にやることもないので、街中をぶらぶら。
何となくぶらぶら。
と、「そやそや、お母さんに伝えとかなあかんわ」。
電話を掛ける。

「はい、もしもし」
「あぁ、俺やけど。あんな、マイナンバーカード、さっき貰いに行ったから」
「そう、分かったわぁ」
短い会話を終え、スマートフォンをポケットに入れる。
「あぁ」
あまりに些細なことだが、ほんの僅かでも親孝行をした。
そんな気分に。

つづく

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