(203)俺のチェレステが、某有名百貨店の紳士服売り場を彩る。-1

俺は、情緒不安定になりながら、この記事を書いている。
誰にも言わず、俺の中の閉じた世界で完結しようと思っていたが、誰かに言いたい気持ちを抑えられなくった。
ので、書く。

前提として、俺はヒルクライムの大会で好成績をあげたとか、超高級ロードバイクに乗っているとか、そんな選ばれた男ではない。
趣味として、マイペースにロードに乗って楽しんでいる、ただそれだけのおっさんだ。
たが、先日、俺なりにちょっと自慢できるようなことがあった。

どこから話せばいいのか、自分なりに整理して書きます。
えぇ。

話は、4、5年前にさかのぼる。
サイクルスポーツかバイシクルクラブかは忘れたが、俺は自転車雑誌を読みながら、ひとり、酒を飲んでいた。
いつも鳴門に連れて行ってくれる、Nさんが経営する居酒屋で。
自転車雑誌には、SHIMANOのカタログが付録でついており、それに目を通していると、「ちょっと、その雑誌いいですか?」。
厨房の中にいるNさんに尋ねられた。
「あ、はい」と、雑誌を差し出す俺。
受け取ったNさんは、俺の近くに座って飲んでいる男性に手渡した。
この時点では、その男性が俺に晴れ舞台を用意してくれる未来など、想像もつかなかった。

男性は、ジョッキを傾けて、俺の雑誌に目を通す。
そして、またジョッキを傾けて、雑誌に…を繰り返すのだが、その合間合間で、「自転車乗るんに、こんな服着んでええねん。動きやすけりゃ、なんでもええねん」とか、「今の流行りは、ほんまに意味あるんか?」などとつっこんでいる。
俺は、悪態を耳にしているうちに、その男性のことが気になる。
思わず、「あの、こういうタイプの自転車に乗ってたんですか?」と聞いてしまった。
コミュニケーション能力が低い俺にしては、珍しく。
「ええ、昔ね」。
シャープな輪郭に眼鏡をかけたその男性は、ローラン・フィニョン選手(80年代活躍した、フランスのロードの選手)に似ていた。
ちなみに、数ヶ月が経ち、また別の飲み屋で再会したところ、「よく見たらフィニョンに全く似てないな」と思ったが、便宜上、ここでは彼を「フィニョンさん」と呼ぶ。

「以前、ロードに乗ってたんですか?」。
50代半ばのフィニョンさんに聞く。
「ロードではなく、ランドナーです」。
俺は「ランドナー?」と、初めて耳にする言葉を、妙に新鮮に感じた。
「ランドナー」。
正確には、知っていた。
響きではなく、文字で知っていた。
ロードほどスポーティーではないが、自転車で旅行することに適したタイプの自転車。
薄っぺらい知識はあったが、耳にするのは初めて。

自転車で旅。
時間さえあれば、俺もとことんしたいと思う。
現実的には難しいが、それでも自分なりにスケジュールを立て、高知県や和歌山県、岡山県や京都府と、いろいろ旅をした。
悲惨な経験も多いが、しばらくするといい思い出になる旅。
「ランドナーに乗って旅したフィニョンさん、どんな経験をしたんかな?」。
勝手に想像すると、好奇心が抑えられなくなる。
俺もジョッキを傾け、フィニョンさんと向き合った。

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