(205)俺のチェレステが、有名百貨店の紳士服売り場を彩る。-3

窓際の席で、「まぶしいわぁ」と思いながら、パチパチパチッとキーボードを叩く。
パソコンに向かって仕事をする、いつも通りの朝のこと。
切りのいいところで、ポケットからスマートフォンを取り出し、LINEチェック(いつ見ても、通知0のくせに)。
と、LINEではなく着信通知が入っているではないか。
「う~ん、登録されてない、知らん電話番号やな」。
10代後半から20代半ばにかけての俺なら、「電話番号を教えていない女の子から電話があったのではないか?しかも、愛の告白ではないか?誰かわからんその彼女は、きっと、共通の知人に俺の番号を教えてもらい、勇気を振り絞って俺に電話をかけてきたはずだ。そう言えば、心当たりがある」と、前向きな勘違いをしただろう。
だが、俺はもう40過ぎ。
自分にとって都合のいいファンタジーより、現実に軸足を置いている。
ので、普通に、「怪しい」と思った。
しばらくすると、またその番号から着信が入る。
怪しすぎる。
警戒心の強い俺は、無視を貫いた。

昼休憩の時間になり、老人Mさん(俺を呉に連れていってくれたおっさん)から、メールが入る。
「フィニョンさんに頼まれて、君の電話番号を教えたで」とのこと。
フィニョンさんと初めて会って以降、何度か別の飲み屋で偶然に会い、自転車の話で盛り上がったが、連絡先の交換はしていなかった。
「あの人からの電話やったか!?無視なんて、失礼なことをした!」と、折り返し電話をかけたところ、「○○百貨店のフィニョンです」。
「どうも、なんかすみません。お電話頂いていたようで。何か急用でしょうか?」と俺。
「何の要件やろ?」と動揺しながら、フィニョンさんの回答を待つ数秒が、とても長く感じた。

「あの、ロードバイク、何台持ってますかね?」とフィニョンさん。
「え?」と口にしそうになった。
「いきなり何の話?」と思う。
「来月の頭に、1週間ほど貸してもらいたいのですが、どうでしょう?」。
俺は、ロードを複数台持っているので、1台ぐらい貸すのは問題無い。
フィニョンさんが長期休暇を取って、ロードに乗って旅をしたいなら、「これをどうぞ」と貸すことはできるのたが、貸す前に整備もしなくてはならない。
となると、少し面倒くさい。
そんなことを勝手に悩みながら、「乗るんですか?どこ行くんですか?」と尋ねた。
「乗らないですよ。展示したいんです」。
「展示?」。
「僕の担当している紳士服売り場で、クールビズを意識した、涼しく動きやすいスタイルをお客様にご提案したいと思いまして」。
「はぁ」。
「そこで、夏物のスーツでも堅苦しくない物と一緒に、ロードも展示したいんです」。
「ロードでスーツ?」。
「こういう通勤スタイルもありますよ、とお客様にご提案したいんです。だから、良ければ1台貸してもらえませんか?」。

答えは、「Yes」以外無い。
Yesすぎる。
フィニョンさんの勤務する百貨店は、ちょっとやばい百貨店で、どうやばいかと言うと、ブランドイメージの高さがやばいのだ。
落ち着いて、その辺りを説明する↓

2月14日、バレンタインデー。
女性からチョコレートをもらう日。
中には、露骨に「これは義理チョコです」と主張しているチョコがある。
それをくれた女性に対し、「こっちはもらう義理も無いよ」とは敢えて言わず、「ありがとう」と伝え、鞄に入れる。
3月14日、ホワイトデー。
義理には義理で返そうと、庶民的なデパートの地下でお返しを買い、女性に渡す。
だが、まれに、愛と誠意のこもったチョコレートをもらうこともあり、その場合は、フィニョンさんが働く○○百貨店でお返しを買う。
それこそが、俺なりの誠意の見せ方。
ちなみに、バレンタインのお返しに限らず、普段からお世話になっている人のお祝い事にも、その百貨店でプレゼントを買うようにしている。
逆に、しょぼい奴へのプレゼントは、しょぼい店のしょぼいもんでよい。

「あぁ、俺のロードが、○○百貨店に展示されるのかぁ」。
胸が躍るぜ。

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