(207)俺のチェレステが、有名百貨店の紳士服売り場を彩る。-5

「俺の方で、ディスプレイスタンドを買ってきました」。
フィニョンさんにそうメールをした。
数分して、「ありがとうございます。助かります」と返事が入る。
「あの、俺、今から梅田を出て西宮に帰るのですが、もし、フィニョンさんがいつも飲んでる店に今日も寄る予定でしたら、自分も行っていいですかね?」。
「どうぞどうぞ。一緒に飲みましょう。お待ちしております」。
そんな流れで、フィニョンさん行きつけの飲み屋に向かう。
俺としては、ロードバイクを貸す日と場所を決めたかったし、荷物になるディスプレイスタンドをとっとと渡しておきたい気持ちもあった。

飲み屋の暖簾をくぐり、カウンターに座るフィニョンさんに頭を下げ、ディスプレイスタンドを渡す。
「わざわざ、どうもありがとうございます」と言いなかがら、彼は鞄からクリアファイルを取り出した。
中には、ロードっぽい自転車の写真が印刷されたチラシが挟まれている。
「これ見て下さいよ、これ」。
チラシに目を通すと、「SHIMANO 105」、「¥220,000」。
そういったキーワードには反応したが、フレームもホイールも知らんメーカーだ。
基本、俺はUCIプロチームに機材を供給するメーカー以外は、あまり知らないのだ。
「なんか、よくわからんわぁ。22万の価値があるんかな?」と思いながら、フィニョンさんの熱い話を聞く。
このパーツは、マンガンモリブデンでどうの、クロムモリブデンがどうのと。

一通り語り終え、場が落ち着きだしたところ、またフィニョンさんの口を開く。
「それでですね、自分の知ってる服屋と自転車屋がコラボして、このチラシの自転車を服と一緒に展示したそうでね」。
なるほど、そういうことか。
チラシを見て着想を得て、紳士服とロードの展示を、自分の売り場でしてみたいと。
「OK。売上に貢献できるかどうかはわからんが、俺にできることなら、協力するよ」と、俺は誓った(口には出していない)。

翌朝に近所の駅前で待ち合わせ、ロードをお渡しすることも決まった。
「もう他に、確認せなあかんこと、決めなあかんことはないよな」と、俺は家に帰ってフレームやホイール、チェーンを洗浄してから、眠りについた。
ちなみに、乗る予定は無いとのことだったし、「売り場に搬入する際、服が汚れたらあかんやろ」と思い、チェーンに注油はしなかった。

朝を迎え、ロードを押しながら、フィニョンさんと約束した駅前へ歩く。
途中、「今、車で向かっていますが、雨が降りそうなので、ご自宅まで伺いますよ」とメールがきた。
「ご親切にありがとうございます」と思いながら、「すみませんが、もう駅までちょっとの距離なので、結構です」と返事。
しばらくすると、本当に雨が降ってきた。

「最悪やなぁ」と、薬局の屋根の下で雨をしのいでいると、遠くで手を振るフィニョンさんを発見。
駅に近い場所には、車を停めにくかったのだろう。
ロードを押しながら、小走りで彼の元へ走る俺。
挨拶を交わしてから、ロードを車に積み込む。
その前に、「ご存知だと思いますが、念のために…」と前置きをしてから、ロードを上下逆さまにして地面に置いた。
そして、ホイールの外し方とはめ方を説明した後、フレームをトランクに入れる。
「これは、助手席にでも置いといたらいいかと」。
そう言って、フィニョンさんにホイールを手渡すと、「かるっ!」と驚かれた。
「はい、このRacing Zero Niteはですね、前後で1400gぐらいなので、軽いですし、性能面でもですねぇ…」と、自慢気にホイールの説明をしたくなったが、雨が強くなってきたので、俺は頭を下げて、駆け足で家に帰った。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする