(209)俺のチェレステが、有名百貨店の紳士服売り場を彩る。-7

いつも見るチェレステとは違う。
普段、俺が乗るBianchi ARIAとは違う。
売り場の照明のおかげなのか、とても発色が良く感じた。

某有名百貨店(支店)の紳士服売場に展示された、俺のロードバイク。
元々は、栄えある本店に展示されると勝手に思い込み、「なんや、支店かよ」と失望していた。
「支店やったら、オークワ(スーパー。郊外に多い印象が強い)みたいな感じやろ」。
そう考えていたが、いやいや。
実際訪れて見ると、「さすが○○百貨店。支店でも、さすが○○百貨店。高級感がやばいぜ!」と、叫びそうになった。
「ここに、俺のロードが展示されてるんや。えらいこっちゃ!」とも。

紳士服売り場に着き、服には一切目もくれず、展示されているロードをまじまじと観察する。
普段、家にある時は、有り難がって観ることはないが、今日は特別だ。
俺にとって、一生の思い出になるだろう。

「いいねぇ。俺のロードは、なんて美しく、そして格好いいのだろう」と感心していると、女性の店員さんが話し掛けてきた。
店員さんは、おばちゃんと言うより、お婆ちゃんに近い感じの人だったが、上品な雰囲気。
「服を買いに来たわけちゃうんやけどなぁ。なんて会話したらええかなぁ」と悩む俺。
「あ、ちょっと自転車に興味があって、看取れてしまいまして」と答える。
「これ、俺のんなんです」と言うより、「敢えて俺の身元を隠した方が、控えめでちょっとかっこいいかな」と、瞬時に考えた結果だ。
すると、「あぁ、この自転車ですね」 。
店員さんが、口を開いた。
「大層、高価な自転車らしいですが、私にはその価値がわからないものでして…」。
「価値、あるよ!教えよか?まず、このフレームはカーボンでできていて…」と説明したい気持ちに駆られたが、そこはグッと堪えた。
そして、身元を隠したまま、その場を去る俺。
我ながら、渋すぎるぜ。

心が満たされた。
心が満たされたせいで、当初、ロードの展示をチェックした後、百貨店の地下で酒のつまみでも買って帰る予定だったが、すっかり忘れて帰路についた。
しかも、電車に乗ることも忘れ、家まで1時間以上歩くことに。
「綺麗に展示してもらえてよかった」。
「こんな機会はなかなか無いよな」。
そんなことを考えていると、不思議なことに、いくら歩いても疲れは全く感じなかった。

展示期間が終わり、2~3日経ったある日、フィニョンさんからメールが入った。
「その節はありがとうございました。お借りしていたロードバイクを返却したいと思いまして」。
また2~3日後、フィニョンさんは、ロードを車に積み、わざわざ俺の職場の近くまで来てくれた。
「先日、そちらの売り場に伺いました」。
続けて、「照明の加減なのか、または、一緒に展示されていたスーツの配色のおかげか、いつもよりロードが綺麗に見えました」と、感想を伝える。
そして、「今回は、どうもありがとうございました」。
お互いに感謝の気持ちを言い合い、その日は別れた。

俺のチェレステが有名百貨店の紳士服売り場を彩る。
数ヶ月前の出来事だが、今でもたまにあるのだ。
売り場に展示されている俺のロード。
俺のチェレステ。
その写真を見て、ニヤニヤすることが。

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