(277)伊勢志摩を走る。~1日目 足を引っ張る人との出発~

伊勢志摩サイクリングフェスティバル。
景色を眺めながら伊勢志摩を走る、待ちに待ったイベントだ。

予定としては、11月30日の朝、近鉄の上本町駅よりサイクルトレインに乗り、志摩スペイン村でイベントの受付を終わらせて宿泊。
翌日(12月1日)の朝、ホテルから再度スペイン村に行き、イベントに参加後、夕方、サイクルトレインで帰る。

「先日も説明しましたが、出発する11月30日、今回申し込んだ近鉄より、サイクルトレインに乗るための集合場所、集合時間が指定されています」。
出発の2、3日前、一緒に参加するAさんとBさんにメールをした。
「集合場所は、上本町駅を出て少し歩いた所。詳細な場所は、先日渡した地図を見て下さい。集合時間は7時20分~40分。何故か余裕を持った感じで指定されています」。
「自分は、最寄り駅でロードバイクを輪行バッグに収納し、電車で集合場所に向かう予定ですが、おふたりは?」。
しばらくして、Aさんから「僕は家から上本町までロードで走って行きます」。
そして翌朝、Bさんから「僕もKRMさんと同じ駅で待ち合わせて、KRMさんと一緒に輪行で上本町に行きます」と返事があった。
「では、俺と一緒に行きましょう。うちの最寄り駅から6時半の電車に乗ると、指定された集合時間(7時20分~40分)には余裕で間に合います。一応、俺は6時20分に最寄り駅にいますので」。
「わかりました。僕は6時にKRMさんの最寄り駅に着いて、自転車を輪行バッグに収納する作業を始めます」。

Bさんとは、一緒に酒を飲む機会がちょくちょくある。
以前、明石市にふたりでサイクリングしたこともある。
が、とにかく意味がわからない人だ。
待ち合わせに遅刻する。
「やっと来たな」と思ったら、「自転車が壊れました!ここに来る途中、チェーンが外れてなんとかかんとか…!」とわめく。
「しょうもない言い訳をしやがって」と、Bさんの自転車(マウンテンバイク)に目をやったら、本当にチェーンが外れ、変な角度でフロントディレイラーに食い込んでいた。
走れる状態に戻そうと、試行錯誤したが、普段からまったくメンテナンスをしていないらしく、俺の手は真っ黒け。
「大丈夫か?Bさん、今回も準備不足が原因のくだらないアクシデントがあるんちゃうかなぁ…」。
そんな不安を抱きながらも、出発当日を迎えた。

朝の3時に起きるつもりが、俺は興奮状態にあったのだろう。
自然に目覚め、枕元にあるスマートフォンに目をやると1時。
コーヒーを少し口に含み、ぼーっとしてから風呂に入ってリフレッシュ。
タイヤに空気を入れ、フレームやチェーンの清掃をし、1泊2日分の荷物をなるべくコンパクトにしてリュックに詰め込む。
「まだ時間に余裕があるなぁ。暇やなぁ」。
もともと、俺は最寄り駅までロードで走って、ロードを輪行バッグに収納するつもりだったが、時間が有り余っている。
家で輪行バッグに収納して最寄り駅まで担いで歩くことにした。

近所でも、普段あまり見ることのない夜更けの景色の中、俺は輪行バッグを背負って最寄り駅に歩く。
と、必死でクランクを回すマウンテンバイク乗りが視界に入った。
スマホで時間を確認すると、6時18分。
「まさかBさんと違うよな。彼は今頃、駅前で自転車を輪行バッグに収納してるはずやもんな」。
そう思ったが、期待は裏切られた。
駅前にいるではないか。
マウンテンバイクの後輪を外そうと必死になっているBさんが。
「嘘やろ」と「やっぱり」が入り交じる心境になる俺。

「あの、あと10分ちょいしたら電車に乗らなあかんのですが、何をしてるんですか?」。
「いやぁ、これを輪行バッグに入れようと思って。一昨日、この自転車を買った店に行ってレクチャーを受けたんですが、それでね、なんとかでね、なんとかかんとかでね」と言い訳スタート。
電車の時間があるので、いちいち付き合ってるわけにもいかない。
「自分も手伝います。まず、前輪と後輪を外して下さい」。
「それが、後輪がなんとかかんとかでどうたらこうたらで」。
いちいち相手にしている時間も無いので、俺はとりあえずホイールを外した。
「次に、輪行バッグを広げて下さい。収納したら終わりです」。
「はい」とBさん。
輪行バッグの底には、「ここにサドルを置いて下さいね」、「リアディレイラー付近はここに置いて下さいね」と、わざわざ親切に絵まで書いてくれているのにパニックになるTさん。
口で説明し、決められた位置に置いたのはいいが、ホイールとフレームを縛ろうにもベルトが無い。
「どうしたんですか?」。
「紛失しました」。
Bさんらしい。
「エンド金具は?」。
「そんなんありましたねぇ。まぁ、今はなんとかかんとかで、どうたらこうたら」。
要は、紛失したのだろう。
「…」。
輪行バッグ(外観のみ)を目の当たりして、俺は言葉が出なかった。

乗る予定の電車は、3分後に発車する。
「もう、僕のことはいいですよ。KRMさんは予定通り電車に乗って下さい。大丈夫ですから」。
Bさんはそう言うが、「絶対無理やろ!?」と思った。
「その次のに乗ります。集合に指定された時間は7時20分~40分ですが、1本送らせても7時19分に上本町に着きます。7時40分までに着くことを目指しましょう」。
そう語りかけていると、Bさんは、鞄の中からビニール紐を取り出した。
「ビニール紐?なんで?」と思いながら、Bさんを観察する。
どうやら、ビニール紐を、フレームとホイールを縛って固定させる中締めベルトに代用するようだ。
「なるほど。えらい原始的やなぁ」。
感心して見詰めていると、やっとこさ輪行バッグへの収納を終えた。

上本町までの切符を買って、ホームへ小走り。
ヘルメット、サイクルトレインのチケットや財布など貴重品を入れたサコッシュ、ビンディングシューズ、着替えが入ったリュックを背負い、9㎏ほどの輪行バッグを肩に掛けて走るのはきつい。
「朝っぱらから、疲れるわぁ」と思い振り返ると、Bさんが必死に走っている姿が見えた。
「いったい、何が入ってるんやろ?」と気にはなっていたが、パンパンに膨れ上がったリュックと、釣り用具なのだろうか?
箱にストラップを付けたような鞄をぶら下げ、ストラップの無い輪行バッグを両手に掴み、必死になって走っている。
俺は、笑いそうになった。
「ほんま、アホやなぁ」と。

ホームで電車(予定より1本後)を待つ俺とTさん。
駅前でもたもたして時間をロスしたため、辺りはずいぶんと明るくなっている。
「土曜の朝やったら、利用客もあんまりおらんやろ」と思っていたが、ホームに人が押し寄せてきた。
「やばいなぁ」と思う。
輪行バッグを担いで混んだ電車に乗ると、周りの人たちに迷惑を掛ける。
とりあえず、少しはスペースがあるであろう先頭車両か一番後ろの車両の位置に移動して、電車を待つ。

「朝っぱらから何やねん?何がしたいねん?何で今日も遅刻するねん?」とBさんに対する不満が自然に湧き出るが、「なるべくおおらか人間になろう」と俺は心掛けている。
口をつぐむことにした。
が、「いやぁ、朝から大変でしたね」とBさん。
「ま、僕のことをネタにして、みんなで楽しめる材料になりましたね」。
これには、本気でイラッとした。
「そんなんいらないんですよ。一個もいらないんですよ」。

俺はBさんに対して、「プロレベルの走りを見せてくれ」なんて期待していない。
ただ、「遅刻はするな」、「普段からメンテナンスしておけ」という、心掛けひとつで誰にでもできることを要求しているだけだ。
そんなもん、人に指摘されなくてもやってて当たり前。
それができていない上に、「ネタ?」。
感情的になりそうになったが、「これはまともに向き合っても人生の無駄やな」と思い、輪行バッグを担ぎ無言で上本町行きの電車に乗り込んだ。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする