(280)伊勢志摩を走る。~1日目 寂しいスペイン村~

間も無く終点の賢島に着く。
「お客様の自転車が置かれているA号車、またはB号車に移動をお願いします」。
そうアナウンスされ、我々はB号車に向かう。
自分のロードバイクの前に立ち、係の人に声を掛けると、吊革と固定していたゴム紐をほどいてくれた。

3時間の退屈が終わった。
サイクルトレインを下車する。
ロードのトップチューブを軽く持ち上げ、車両の出入口からホームに右足をついた。
顔を左右に動かせ、辺りの景色を見る。
「近くに居酒屋はないかな?」と思ったが、辺りは緑。
自然。
「構内に駅弁の売店があったらええな」とも思ったが、改札の先にファミリーマートが見える。
あまり風情が無い。

駅を出てすぐの所に、バスと自転車を積むトラックが止まっている。
ハンドルに手を添えて、ゆっくりとバスに向かって歩いていると、「困りましたわぁ。どうしょうかなぁ」。
後ろでBさんの独り言が耳に入った。
彼の自転車(マウンテンバイク)は、上本町で後輪をフレームにはめた際、回らなくなった。
そのせいで、後輪が地面に接しないよう、右手でサドルを持ち上げ、左手でハンドルを押しながら、とぼとぼと歩いている。
「何が原因かわからんけど、後で直したらあかんな」と俺は思った。
「どうしましょうかねぇ?これ、直れへんかったら明日のイベントどうしたらいいですかねぇ?」。
困った顔で、Bさんが話し掛けてくる。
「そうですね。今みたいに右手でサドルを持ち上げて走ったらええんちゃいますかね、50㎞。自転車のイベントやけど、それはそれでアリちゃいますかね」。

ハンドルに預り証を通し、トラックの前にいる係の人にロードを渡した後、我々はバスに乗り込んだ。
俺、Aさん、Bさん、それぞれに別れて席につく。
チームとしての連帯感はあまり無い。
実感する。
話し相手もいないので、なんとなく窓の外を見ていると、バスが出発した。

「自然豊かでええ環境やけど、コンビニと自販機、ほんま少ないよなぁ」。
「明日、この辺りを57㎞走るけど、エイドステーションだけで補給は大丈夫か?」。
ぼんやりとそんなことを考えていると、10分ほどで志摩スペイン村に着いた。
我々は、ここに設けられている事前受付場所に寄り、エントリーを済ませなくてはならない。

とりあえず、ロードをサイクルラックに引っ掛かて一息つく。
駐車場の脇の芝生に座る俺。
「伊勢志摩サイクリングフェスティバルって、毎年1,000人ほど参加するイベントらしいけど、マジ?」。
辺りを見回すと、いくら前日とはいえ、人が少なすぎるような。
何か不安になってきた。
サイクルラックの前では、Bさんが後輪の脱着を試み、Aさんが隣でアドバイスしている。
「Aさんがついてるんやったら、ほったらかしといても大丈夫やな」と思い、「ちょっとトイレ行ってきますわ」。
俺は辺りをうろうろした。
本当は、そんなにトイレに行きたいわけでもなかった。
ただ、上本町から4時間近く座りっぱなしだったので、何か理由をつけて歩きたかった。

「事前受付所はあそこか。あんまり並んでないな。やっぱり人が少ないよなぁ」。
「もしかして、俺ら、日を間違ったんちゃうか?」。
「いや、そんなわけないよな」。
トイレに行って、皆が待つサイクルラックに戻ると、Bさんのボロ自転車の後輪は回るようになっていた。

「じゃあ、今から自転車を臨時保管所に入れて、受付を済ませましょか」。
Aさんが言った。

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